これが認知症なんだ （２８７） 納得する？
＜That's Ninchi Show No.287 ＞
説得はできないが、納得はしてもらえる、たとえ認知症でも。というが・・・
論理的な説明は理解できないが、感情に訴えれば納得するということだろうか。たとえば、親子の情で、みんなが困っていると言って、ひたすら頼めばこちらの要求をのんでくれるとか、可能だろうか。
息子や娘を信頼できなくなっているのに、頼みをきくとは思えない。「みんながウソをついている」と言って、誰の言葉も信用しないだろう。認知症老人の頭の中の世界を理解し共感できる人はいないから、「信じられるのは自分だけ」になる。
老人マンションの入居も、結局は説得できず、納得もしてもらえなかった。時間をかけただけ、疲れただけ、むだだった。どんなに利点をならべたてても、理解できない。家族が困ると泣きついても、知らん顔。「情に訴える」効果はない。
施設の入所者に聞くと、「家に帰りたいけど、帰ると家族に迷惑をかけるから」と多くが答えるらしい。家族のためというのが入所している理由だそうだ。が、それは、認知症が出てない人に限られるのでは。
認知症老人は自分のことしか考えてない、きっと。ときには、自分のことすら考えていない。自分の生命維持に反するような行動を平気で繰り返すのだから。
他者の立場になって考えることができないのに、「ご近所や家族が困っているから、施設に行って」と頼んでも通用するはずがない。
施設入所だけでなく、デイサービスや病院に行くのも、本人が「絶対行かないから」と言い出すと、もう説得などできない。時間を使うだけ、疲れるだけで、成果はない。
しつこく話していると、「じゃあ、行く」と言うこともあるが、長くは続かない。次の日には「行く」と言ったことをきれいに忘れていて、「絶対行かない」と繰り返す。
「病院に行く」と言うから、予約をとっておいたら、当日になって「行かないからね」ということもあった。認知症老人に「約束」はない。「行くなんて言ってない」と言えばそれで終わりだ。ほんとうに覚えていないのだから、自信たっぷりだ。
家族としては、病院に早く連れて行き、治療やリハビリの方針をたてないことには、安心して夜も眠れない。デイサービスにも行ってもらわないと、一日中認知症老人の世話では家族だって耐えられない、心身の疲労がたまりっぱなしでは。
ではどうするか。説得や、納得させることは難しいし、いったん説得できても、ころころ気が変わるから何の意味もない。そんなむだな努力はするだけむなしい。
何も言わずに病院の予約をとり、当日に聞いてみて「行く」と言えば連れて行く。だめなら「天気がいいから公園に」などと言ってごまかして連れ出すことだろうか。
老人マンションの入居も、本人の意思にかかわりなく決めた。もちろん、現地に連れて行って部屋を見せて、本人が「きれい、気に入った」と言っていたからだが。
説得して入居する気になっても、翌日には「やっぱりまだ早い」と入居する気がなくなる。本人の気持ちがかたまるのを待っていると仮押さえの期限が切れるので、見切り発車して契約したわけだ。
当日、引越しの荷物が運び出され、家族や友人が手伝いに来て、総勢七人でマンションに移動したからかどうか、おばあちゃんは案外おとなしくしていた。「絶対行かないから」と騒いでもむだだと思ったのかもしれない。
認知症老人の説得はできない。納得させるのも、一時的なものだ。工夫がいる。
（２０１２年８月）
