認知症、本能は。。
認知症でも本能は働くのだろうか。
つまり、「人間らしい高度な脳の働きは消失しても、動物としての生存本能等は残る」というようなことだ。
何の根拠もないのだが、親が認知症を発症してもしばらくの間は、このような考えがあったように思う。
これは全くの誤りで、ケアラー(介護する人)としては知識不足、親には申し訳ないことをしたと思っている。
認知症の人は本能だってまともには働いていないようだ。
うちの親が身をもってそれを教えてくれたことになる。
食事を用意しても認知症の本人が食べてくれない時など「食卓に置いておけば、お腹が減ったら食べる」と思っていた。
具合が悪そうにもないし、食べない理由がわからない。
「忙しいのに、つきあってられない」と放置した。
食事の時間に都合がつかない時は「冷蔵庫にお弁当を入れておけば、お腹がすいたら自分で食べるだろう」と思って、仕事に行った。
どちらも結果としては「食べていない」ので、困ってしまった。
このようなことが続くと栄養失調になる。
ここでやっと「認知症だと空腹感がない」場合があるとわかった。
普通の人は「腹が減ったら食べる」のだが、認知症の人の中には「腹が減らないのでいつまでも食べない」ことがあるようだ。
そのうちに冬になり、また一つ困った事態が起きた。
認知症の人にストーブは危ないのでオイルヒーターを使っていたのだが、昼間は南向きで暖かく消していることが多かった。
家族がいるならそれでもいいのだが一人暮らしだったので少し心配があった。寒い時にちゃんとヒーターを入れてるだろうかと。
だが「動物だって寒さはわかる。人間なら、寒くなったらヒーターを入れるはずだ」とも思っていたら、ある寒い日、
訪問介護のヘルパーさんから電話があった。
「朝うかがったら、室温が10度で外と同じでした」と。
ヒーターのスイッチは入ってなかったという。
これはどういうことだろう?
「寒いという感覚が鈍くなった」のだろうか。
それとも、寒いことは寒いと感じていたのだが、
「ヒーターの操作方法がわからなくなった」のだろうか。
これらの他にも似たような困ったことが続いて、「一人暮らしはもう無理、生命の危険がある」と家族の誰もがついに悟り、
本人は嫌がっていたが施設入居となったわけだ。
認知症は単に記憶力の低下だけではない。
広く脳全域にわたって機能障害が起きているらしい。
どこがどう壊れているかわからないことが対応を難しくしていて、単に記憶障害だけだったらここまでの苦労はないと思う。
記憶力の乏しい乳児や二歳児なみの知能のサルと同じではない。
認知症の人は赤ちゃんに戻るわけでもなく、動物のように本能だけになるわけでもない。
そういうような誤解や偏見があると、認知症の人への適切な対応ができず、症状を悪化させたり健康を害したりしかねない。
認知症の人は本能すらまともには働いていない、
そういうものだとして対応すべきだと思う。
<That's Ninchi Show 2 No.1256>