これも認知症なんだ<That's Ninchi Show 2>

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認知症、「毒が入っている」から食べない。。

脳は理由や原因を知りたがるものらしい。

ヒトは未来を予測するという高度な思考能力を持つが、その思考過程のベースとして「今の状態になった原因」があるからだという。

「原因→その結果としての今の状態→予測される未来の状態」というように考える。そのために先ず原因を知ることが必要になる。

この思考回路は認知症になっても残っているのだろうか。

うちの親は二人とも認知症になったのだが、症状や進行速度などに共通点はほとんどない。発症年齢も違う。

だが、食べ物に「毒が入っている」と言って食べようとしなかったということだけは共通している。

こんなことを言ったのは二人とも一回だけだった。
もしこれがずっと継続するようなら栄養不良で衰弱してしまう。

ケアマネージャーさんに聞くと「認知症の被害妄想、よくあること」だそうだが、同じことを言うなんて。

症状も置かれた環境も全然違う二人が同じことを言う。
どういうメカニズムが働いているのか不思議だった。

もしかすると二人とも「今、食べられない」という状況にあって、「食べられない」ことの理由を探した結果なのだろうか。

なぜ食べられないのか明確な理由がわからなかったと仮定する。

しかし周囲の人には「食べない理由」を説明しなければならない。
そこで「毒が入っている」という理由が選ばれた、そういうこと?

普通の人ならそんな現実離れした理由を選んだりはしない。

「体調不良で食欲がない」とか「おやつを食べ過ぎて満腹」とか、「お昼が遅かったので」とか、適当な理由があるから。

認知症の人の脳にはそれらの適切な選択枝は浮かばないのだろうか。

何も浮かばなかったとして、それならそれで「理由はわからないのだけど食べられない、食べたくない」と言えないのだろうか。

ほんとうに不思議だ。
あれから何年もたつが、今でもこのことはよく覚えている。

親が真剣な表情で「毒が入っている」などと言うのだから。
そんなあり得ないことを確信している様子を見せられたのだから。

ところで「認知症の人が突然食べなくなる」理由として、「食べ物が食べ物に見えていない」ということがあるらしい。

もしかするとそうだったのだろうか。

妹が持参したお弁当が食べ物には見えてなかったのかもしれない。
それが「毒物」として見えていたとしたら、食べるわけがない。

「妹が毒殺しようとしているという妄想」ではなく、ただ単に「食べ物に見えない、まずそうな代物」だったのかもしれない。

脳が壊れるというのはそういう認識の異常も含まれる。
目で見た物そのものが脳で「見た」と認識されるとは限らない。

目で見た物と全く違うものとして認識されることはある。
「妻を帽子とまちがえた男」という例があるように。

妹に毒殺されるという被害妄想はなかったかもしれない。

そう思ったほうが妹は救われる。
実母にそう思われていたら「なさけない」ではすまないから。








<That's Ninchi Show 2 No.1244

参考;「妻を帽子とまちがえた男」 オリバー・サックス
  
妻の頭を帽子とまちがえてかぶろうとする音楽家、からだの感覚を失って姿勢が保てなくなってしまった若い母親、オルゴールのように懐かしい音楽が聞こえ続ける老婦人―脳神経科医のサックス博士が出会った患者たちの実話