認知症の妄想の発端、連鎖、拡大。。。。。
些細なことを材料にして妄想は出現する。
認知症の人の妄想は、何の根拠もないもので、根も葉もない「つくり話」だと思われている。あり得ないことばかりだから。
しかし、「妄想のできる」過程、妄想が現れる前後の状況を考えてみると、妄想のタネとも言える材料(原因)があってのこと(結果)だとわかった。
何もないところから勝手に作り出したものではなく、原因はある。
うちのおばあちゃんの発病時のことだ。当時一人暮らしで週二回の訪問介護を受けていたが、介護スタッフも家族も誰も発病に気がつかなかった。
これはおかしいと思い始めたきっかけは、おばあちゃんからの電話だ。電話の内容が「いつもと違う」し、話し方も「普通じゃない」し、変だった。
そんな「おかしな」電話が一日に何十回も来るようになった。真夜中でも早朝でも、おかまいなしに。うちの家族みんな睡眠不足で仕事にならない。
そこで、おばあちゃんの電話は無視することにした。仕事中など忙しい時は電話に出ない、夜間は携帯や固定電話の電源を切る。
本人は自分が無視されるとは思っていない。嫌われているとか、自分の電話が迷惑がられているとは思わない。普通の人なら気づくのだが。
ここが妄想の原点だった。あとになってわかるものだ。
「息子の携帯にかけても出ないし、会社の固定電話にかけたら、いつも留守だと言う。会社をクビになったかもしれない」と思ったのだろう。
こうしてまず「息子は失業」という妄想ができた。おばあちゃんは親戚の何人かに電話して再就職先の紹介を頼んだらしい。
それを伝えようと、今度は息子の自宅に電話するが、誰も出ない。
「失業中なら家にいるのに、妙だ。嫁も出ない。嫁は実家に帰ったのだろうか」と思ったようだ。こうして「嫁の実家で不幸」という妄想ができた。
「連絡がとれないのは夫婦で嫁の実家に行っているからだ」と思い、電話を入れる。「息子を電話口に出してください。そこにいるんでしょ」と。
当然ながら「いない」と言われ、おばあちゃんの不安感は強まっただろう。
知り合いに電話をかけまくって探したらしい。そしてなぜか、近所の信用金庫にまで電話した。「息子を出して、そこにいるのはわかってるから」と。
「信用金庫に再就職した」という妄想ができていたようだ。ここでも「いない」と言われて、おばあちゃんの不安は最大値にまでなってしまった。
とうとう警察に電話で依頼した。「行方不明の息子が近所のお寺に監禁されているから救出してください」と。どこからこの話が出てきたのだろう。
近所のお寺は何十年も前から法事を頼んでいる所で、お寺にとっては大事な檀家だから監禁などするはずはない。普通ならそう考える。
なぜこんな妄想が出てきたのか不思議だ。が、「近所の寺に息子が入っていく」という画像データが頭のどこかに残っていたのだろう。
長いつきあいだし、本堂を借りて法事をしたこともあるので。それぐらいしか考えられない。お寺さんとトラブルがあったわけでもない。
理由もなく、信じられないような「拉致、監禁」妄想ができてしまった。
ほんの小さなことが原因で、妄想はどんどん拡大して、結果的には大騒動になった。ほんの短い期間、おばあちゃんの電話を無視しただけで。
認知症の人からの電話は、どんなに迷惑であっても無視してはいけない。家族が無視すれば、迷惑電話の被害は何倍にも拡大する。
そのうちに必ず迷惑電話はおさまる。認知症が進んで「電話番号を見ながら数字を押す」という能力がなくなるから。それまでのガマンだ。