認知症の人の一時帰宅は。。。。。

思いおこせば、一度しか一時帰宅をしていない。

 

おばあちゃんが老人マンションに入居してから五年が経過し、この秋で六年めになる。「家に帰りたい」といつも言っていた一年目は一時帰宅など考えられなかった。

 

「一時帰宅」のつもりで連れて行って、「もうマンションには帰らない」と言われたら困る。老人はわがままで自分勝手でガマンができない、認知症ならなおさらだ。

 

「老人マンションに行ったら認知症になる。絶対行かない」と言うのを、どれだけ苦労して入居させたか。どれだけの人数と時間と努力とを必要としたかを考えたら。

 

一度だけ家に寄ってから、行きつけの美容室に連れて行ったことがある。それが最初で最後だ。二年ほど前からおばあちゃんの家には他人が、借家人が住んでいる。

 

何ヶ月も留守にしている家は独特のにおいがあり、ほこりっぽくて居心地が悪かったのだろう。その後も美容室に行くことはあったが、本人は寄ろうとは言わなかった。

 

入居して一年すると、「もう家では暮らせない、ここにずっと居ていいかな」と本人が言うようになった。認知症でも時には頭がはっきりしていてわかるようだ。

 

「家に帰りたい」とも言わなくなった。本人にとって今ではマンションが「家」のようだ。

 

介護施設で暮らしている老人に外出先の希望をきくと、一番多いのが自宅だそうだ。家族が頻繁に連れて帰ってくれるのがいいのだろうが、難しいことだ。

 

他人から見たら、一時帰宅など何でもないだろう。週に一回でも連れて帰って来たらいいと思うかもしれない。それぐらいのこと、だ。認知症を知らない人にとっては。

 

帰宅して「もう施設には戻らない」と言い出したらきかないだろう。認知症なら。それがあって連れて帰れない、そういう気持ちもある。かわいそうだが。