介護職の人に次のように言われたことがある。「認知症の家族は大変な思いをしているが、認知症の本人のほうがもっとつらい。本人の気持ちを考えてあげないと。」
それを聞いて家族が納得するかというとどうだろう。他人だからそんなことを言える、家族のつらさを理解していないからだと受け取り、真意が伝わらないこともある。
親が認知症になった時、不安と困惑とで頭がいっぱいで自分を保っていくだけがやっと、認知症の本人の気持ちまで考えてあげる余裕などない。普通の人は。
自分に余裕があって初めて、他者を思いやるという余裕も生まれる。
「親がいなくなった」という喪失感と、まるで別人になった親を見るたびに湧き上がる悲しさや失望感、それらに耐えて前に進んでいくだけしかできない。余裕はない。
自分にできることに努めても、認知症の介護は思ったようには進まない。自分への怒り、焦燥感がつきまとい、自分の無力さを思い知らされ、さらに余裕を失う。
心の余裕を持つには、どうしたらいいのだろう。