なさけない
親を警察に引き取りに行くことがあるとは・・
親が認知症になって「なさけない」と思うことばかりだが、警察のお世話になるとは誰も思わないだろう。
ほとんどの人は一生無関係だと思っているはずだ。
「徘徊老人の保護」という言葉を耳にしていても、それが他人事だったときは。
徘徊は他の症状と同じく、突然始まる。
妄想が出ているときに多いのかもしれない。妄想がなければ、意味のない行動はしないから。
おばあちゃんの最初の徘徊は、幸いにも警察のお世話にはならずにすんだ。近所の人に目撃され、電話で知らされて驚いたたのだが、自分で家まで戻ってきたから。
理由を聞くと、「駅まで目の悪い息子を迎えに行った」ということで、いつのまにか「目の手術をする」という妄想が出ていたためだ。
この時はよかったが、次は自分で家まで帰れるかどうかわからない。
念のため警察に電話して、保護を依頼しておいた。(連絡先、住所氏名、年齢を届け出ておく。)
また親を警察に引き取りに行くことになるとは、と思った。
実は以前に実家の父が警察に保護されたことがある。こんなこと、人生に何度もあるものではないだろうに。
その時は真冬だった。
早朝の電話で起こされ、所轄の警察署から「保護してますので、引き取りに来てください」と言われ、急いで身支度をして出向く。
酔っ払って路上で寝ていたらしい。
警察署の前まで来ると一瞬たじろぐ。警察署の門をくぐるなど思いもよらなかったから。
一生縁がないはずだった。派出所に落し物の財布を届けたことはあるが。
派出所なら行きやすいのに。夜間は警察署しかあいていないのだろう。
表に立っている警官にかくかくしかじかでと言うと、どこへ行けばいいか教えてくれたが、その時のみじめな気持ちといったら、なさけないどころではない。
親のことで頭を下げてあやまる、そんなことがあるとは思ってもみなかった。
この時の光景は何年たっても忘れられない。嫌な記憶は早く消したほうがいいのだが。
認知症の親を引き取りに行くのも、これと同じだろう。
みっともないし、なさけない。
わが子に将来そんな思いをさせるかもしれないとは誰も思っていないだろう。わかっていたら認知症にならないように努力する、誰でも。
今は歩行困難が進んで、徘徊の心配はない。
寝たきりになる心配があるだけだ。