これも認知症なんだ<That's Ninchi Show 2>

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これが認知症なんだ (298) 施設のお見送り

<That's Ninchi Show  No.298 >
 
施設で逝くというのは、病院とは全然違う。表玄関から堂々と帰宅できる。
 
そういう話を聞いたことはあるが、実際にそうとは思わなかった。デイサービスのお年寄りも使っている表玄関から帰れるなどとは。ちょっと考えられない。
 
病院では専用の裏口からひっそりと出て行くので。おじいちゃんの時がそうだった。
 
明け方、五時過ぎに施設の医師が呼ばれ、呼吸が止まったことを確認してから、家族へその旨の連絡があった。前日にそういうことに決めてあったから。
 
そのあとは、家族は(といっても弟と二人だけだが)親戚への連絡や、葬儀社との打ち合わせで、悲しむどころではなかった。連絡リストは一月から作ってあった。
 
親戚の電話は長い。こんな時だから手短にしてと言いたいが、相手は高齢者ばかりだから丁寧にゆっくり話す。耳が遠い人もいて、同じことを何回も話す。
 
親戚はほとんどが高齢者だから、危篤を知らせても足が悪いとかで面会に来れなかった。来てくれたのは二人だけだ。亡くなったからといって来てくれるものでもない。
 
夜勤の看護師さんたちが、遺体のケアをしてくれている間に、駆けつけた葬儀社の人と打ち合わせをした。戒名は、宗派は、お寺さんの手配は、などなど。
 
施設の医師はその間に死亡診断書を用意してくれている。これがないと帰れない。
 
おばあちゃんが近所でただ一人親しくしていた若松さんが、知らせを聞いて駆けつけてくれた。以前から、危篤の時は知らせてほしいと言われていたので。
 
家族が事務的なことで忙しくしている間ずっと、この人がおばあちゃんの側にいてくれ、持ち帰る荷物の準備もしてくれた。まさに「遠くの親戚より、近くの他人」だ。
 
おばあちゃんより、一回りどころか、二十歳ぐらい若い友人だ。たぶん長兄(70歳)とそうかわらない。年をとると、自分よりずっと若い友人を持つほうがいい。長生きするつもりならば。
 
長生きすると、友人がどんどん先に逝ってしまって一人ぼっちになるものだ。
 
その若松さんに聞いた話だが、職員さんが何人もおばあちゃんのお別れに来てくれたそうだ。その朝に出勤してきた人も、もうすぐ帰る夜勤の人も、「よくがんばったね」と頭をなでたり、手をさすったり。大事にしてもらっていたのが、よくわかる。
 
葬儀社の車が来て、ストレッチャーに乗せて部屋を出ると、廊下にこの重度者フロアーの職員さんがほぼ全員、整列していた。午前九時前の忙しい時に手を止めて見送ってくれ、そのままエレベーター前までみんなで送ってくれた。
 
それで終わりだと思っていたら、一階でエレベーターを降りると、同じメンバーが全員そこで待ち構えていたから、びっくりだ。老人用のエレベーターはゆっくり動くから、その間に階段でみんなは降りてきたようだ。
 
表玄関で整列して、また車が出るまで見送ってくれた。施設を出るとすぐに曲がり角で信号があり、信号待ちをして、ふと後ろを見ると、まだそのままでみんなが見送ってくれていた。車が曲がって見えなくなるまで。
 
施設での盛大な見送りは、残る入所者のためにもなると聞いたことがある。「いずれ自分の番が来る、その時にはあんな風に見送ってもらえる」と思うと安心して老いていけるらしい。
 
施設では多くの人に看取ってもらい、退所時も全員に見送ってもらった。「最期は病院で」と考えた時もあったが、病院に移さなくてよかったと思っている。
                                     (2012年9月)