これが認知症なんだ (291) かわらない
<That's Ninchi Show No.291 >
整形外科や接骨院では、訪問リハビリ(マッサージ)をしている所もある。
「どこへも行きたくない」、「病院は嫌だ」という認知症老人にとって、訪問リハビリのサービスはとても有難いものだ。無理に連れて行こうとすると、暴れて嫌がり、徹底的に拒否するから。
どうして自分のためになることを嫌がるのかわからない。それが認知症だと言えばそれまでだが。嫌がって何もしないで一日中寝ているだけだ。手も足も動くのに。
動かさないでいると、手足の関節の可動域が減り、筋肉も硬くなり、だんだんと動かなくなる。廃用障害と言うそうだ。やっと歩けている状態なので、ますます歩行困難がひどくなるだろう。
発病前は、自宅の近所の整形外科に通っていた。足や腰が痛いと言って、週一回、マッサージしてもらい、自宅では習ってきた体操を毎日熱心に続けていた。
発病後は体操などする気は全くない。動くのが嫌で、寝てばかりいる。意欲が全くない。何をする気もしない。これは脳血管型の認知症ではよくあることだそうだ。
自分で動く気がない、自分では手足を動かさないのなら、誰かが動かしてあげるといい。が、老人は骨がもろくなっていて、何の知識もない素人が下手に動かすと骨折するおそれもある。やはり、専門の人に頼まないと。
老人マンションには、週二回、訪問リハビリに来てもらっている。一回につき556円(本人負担は一割)で、往復の交通費は払わなくていい。訪問診療と同じだ。
一ヶ月は八回だと4448円、九回だと5004円。これだけ払って、効果があるのかというと、何もかわっていない。同じようによろよろとこけそうになりながら歩いている。
何だかムダなようにも思えるが、そうではない。「何もかわらない」ということは、すなわち「効果が出ている」ということだ。現状維持できたのだから。
認知症老人のリハビリは、「もとにもどす」とか「もっと上に」とかは期待できない。最大目標は「現状維持」で、それが達成されたなら最大限の効果があったとみなす。
昨日と同じ状態でいられること、それで満足だ。何の進歩もない、何も変わらないからと言って、リハビリをやめてしまったら、どんどん筋力が低下するだろう。
かわらないことは有難いこと、そんな風に考えられるようになろう。
(2012年9月)