これが認知症なんだ (290) 自己放棄
<That's Ninchi Show No.290 >
認知症老人は時に自分のことも考えていないような、不利な行動をする。
自分の生存に関わることすら無関心で、放棄する。身体が不自由でもなく、頭も働いていて助けを呼べるのに、何もしない。社会性をなくし、誰の言うことも信じない。
そういう、自分へのケアを放棄することを「自己放棄」「セルフネグレクト」というらしい。ネグレクトと言えば、虐待、育児放棄や老人の世話をせず放置することだが、自分を捨ててしまうような行動は、自分への虐待と言えるのだろう。
認知症老人の介護拒否と同じだ。自分にとって有利なことだとわからず、外界からの援助を拒否するのは。ほっておかれたら生きていられないのに。
介護拒否=セルフネグレクトと考えていいのだろうか。介護拒否の理由がはっきりとはわからないのは、そういうことだったのだろうか。
自分のことを考えられなくなったから、自分のためになることでも拒否する。着替えも、入浴も、歯磨きも、オムツ交換も嫌だと言う理由はそれなのだろうか。
単に嫌だと言うだけでなく、暴れまくって抵抗し、暴言どころか暴力をふるってまで、徹底して拒否する。お風呂に入るだけのことがそこまですることだろうか。
理由がまったくわからない。
認知症老人が突然何も食べなくなる、というのも自己放棄からかもしれない。歯も食道も胃も腸も、肝臓も、どこも悪くなく、嚥下(のみこむこと)能力もあるのに、食べなくなる。
食べなければ生命維持できないのに、食べようとしない。動物として、生物としては考えられない。食べさせようとしても、断固として拒否する。強い意志の力がある。
こちらも理由がまったくわからない。
「老人性うつ病」でも同じように食べなくなるが、これとは全然違う。意志は弱い、というより何の意志もないようだ。無気力、意欲がまるでない。電話にも出ない。訪問者があってもインターホンも無視。すべてのことが嫌で、何もしたくない。
叔母がそうだった。実母と夫、二人の介護で疲れ果て、解放されたあとに「躁鬱病」になった。一人暮らしで閉じこもって「飲まず食わず」で発見され、緊急入院ということが何度かある。点滴などの治療で回復し、「孤立死」にならずにすんだ。
認知症老人は違う。緊急入院して点滴をしたら、それを抜いてしまう。飲まず食わずでは命が危ないのに。うつ病のほうがずっと対処がしやすい。はむかう気力がないから、点滴を抜くこともなく、食べさせれば食べてくれる。
周りの援助を強く拒否し、わざわざ自分の生存を危うくしている。そんなことが、生物として、あり得るのだろうか。自殺行為だ。老化が進むと自滅に向かうのか。
遺伝子の中に、自滅プログラムがあるとは考えたくないが、増えすぎると・・・
(2012年9月)