これが認知症なんだ (289) 火の不始末
<That's Ninchi Show No.289 >
認知症老人の一人暮らし、危険もいっぱいだ。
まず火事の心配がある。台所やお風呂の空焚き、仏壇のろうそくや線香の火の不始末、ストーブの消し忘れ、その他。
どうしても線香をあげると言うのなら、乾電池式のLEDろうそく、線香のセットを買うつもりだった。認知症老人に火を使わせることはおそろしくてできないから。
もう一人のおばあちゃんの部屋にも仏壇があった。この人は、「毎日朝夕きっちり」という性格ではないから、気の向いた時にろうそくを点け、線香をあげていた。
ある時、駅まで迎えに来てくれたときのことだが、家に着いてふと仏壇を見ると、線香の煙が立ち、ろうそくの火まで点いていた、誰もいないのに。
消すのを忘れて迎えに出たようだ。「危ないじゃない」と言うと、「駅まで近いから、五分ぐらいだいじょうぶ」と笑っていた。まったく悪びれたところもなく、非を認めない。
たまにしか会わないし、もともと片付けも嫌いで、身なりもかまわない人だったので、その時は認知症だとは全然気がつかなかった。
今から思えばよく火事にならなかったものだ。このあと、何回か台所でお鍋を焦がしたため、料理するのは禁止になり、念を入れてガスを止められてしまった。週三回のデイサービスで入浴できるから、ガスがなくても特に不自由はない。
ただ手洗いにお湯が使えないので、冬場は冷たい水で洗うのがかわいそうだったが。火事を出したら命はないのだから、そんなことは言ってられない。
デイサービスが嫌いなおばあちゃんのほうは、そうはいかない。デイサービスをやめてしまったので、家でお風呂に入る。ガス給湯器を使って。よってガスは止められない。危ないので、お風呂のときはいつも誰か家族が行って、安全を確認していた。
オール電化ならよかったのだが。今住んでいる老人マンションのように。
そのころは給湯器の操作もあやしくなってきており、おばあちゃんは一人ではお風呂のお湯もわかせない。またお風呂で倒れることを気にしていて、一人だと不安で入浴できないと言っていて、どうしても誰かが行かねばならなかった。
同じくガス台での調理は禁止したが、ご飯を炊いて、電子レンジで野菜を調理したり、お惣菜や冷凍食品をあたためたりして、しばらくは自分で食事を作っていた。最後のほうは、老人マンションに入居する頃はほとんど外食になっていた。
一人暮らしだと、自治体にもよるが、お弁当を毎日届けてもらえるサービスもある。安い料金で。また、生協や給食事業者でも五百円程度で毎日お弁当を届けてくれるから、料理はできなくなってもいい。認知症でなければ、それで暮らせる。
認知症の一人暮らしだと、そうはいかない。普通ではないのだから。
届けに来てくれたお弁当を受け取れるか、というのが問題だ。お弁当が届くことをすっかり忘れているとか、寝てるとか、ドアを開けるのが面倒だとか、ドアの外にいるのは「おそろしい怪物」だ(妄想)とか思って、ドアを開けない。
自分の生存に必要なこと(食料の確保)ができず、よけいなこと(妄想による行動)はできる。生存に不利なことでも平気で、かまわずに。
認知症老人の一人暮らしは無理だ。できないことが多すぎる。
(2012年9月)