これも認知症なんだ<That's Ninchi Show 2>

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これが認知症なんだ (285) ころぶ

<That's Ninchi Show  No.285 >
 
「ころんだ」と聞くと、「年のせい」や「足が弱ったな」ですませてしまいがちだ。
 
老人は確かによく転倒する。よろけるし、ころぶし、立ち上がろうとしてふっと倒れることも多い。本人もそれを自覚し気をつけていて、ころばないように注意するものだ。
 
転倒が原因で「骨折→入院→認知症を発症→寝たきり」という道をたどることもある。だからこそ転倒しないようにと周囲も言い、老人もそれはわかっているから、よほどのことがない限り、頭からステーンと転んだりはしないだろう。
 
「ころんだ」と聞いて、想像される原因は次のようになる。普通は。
 
0.平衡感覚が衰えた。(小脳の老化)
1.筋力が弱った。(足を持ち上げる力が落ちて、小さな段差につまづいた)
2.視力が落ちた。(白内障などで、足元の異物に気がつかず、つまずいた)
3.立ちくらみ、めまい (脳貧血、鉄欠乏性貧血、栄養不良、低血糖、他)
4.脳梗塞など、脳血管系や脳神経系の病気 (脳の機能不全→運動障害)
 
もう一つ、原因があると思うのだが、どうだろうか。
5.認知症   (脳の機能不全→運動障害)
 
認知症が出ると転倒しやすくなる、というのは誰でも知っていることだろう。その逆も言えるのでは。老人が「ころぶ」と認知症の可能性もある、と。
 
思い起こせば、「おばあちゃんがまた転んだ」と聞いて、「骨折してなくてよかったね」と言って安心していたものだが、その時にもう認知症がじわじわと進んでいたわけだが、そのことは全く頭にはなかったから。知らないということはおそろしい。
 
おかしいな、と当時ちらっとは思った。聞けば、近所の内科に行く途中の、いつも通いなれている道で転んだという。何かにつまづいたわけでもない、フラットな歩道で。慎重な人だったから、時間の余裕もみて、ゆっくり歩いていたらしい。
 
慣れている道で、何も障害物がなく、あせって急いでいるわけでもないのに、なぜ「ころぶ」のだろう。それも何回も。本人は神経質なくらい気をつけてゆっくり歩いているのに。脳の検査をしても、脳梗塞はなく、転倒の原因は全くわからなかった。
 
毎週通っている整形外科の先生に聞いても、整形外科的にはどこも悪いところがなく、歩行困難や転倒の原因は別だという。小さい歩幅でちょこちょこ歩くことから、パーキンソン病かもしれないから、専門医で検査をするように勧められた。 
 
いつも診ている先生でも、この時はまだ認知症だとはわからなかったようだ。それほど一般の医師は認知症への理解が浅い。専門医の診断はパーキンソン病ではなかった。じきに、「もの盗られ妄想」がひどくなり、誰もが認知症だと納得したのだが。
 
その後、老人マンションに入居したころには、歩行困難は顕著になり、ヘルパーさんの補助がないと、わずかな距離でも転んでばかりで、まともには歩けないようになった。歩き方がわからなくなる、そういうレベルだ。
 
右足を出して次に左足を出す、それができない。右足を出し、また右足を出そうとして、転びそうになる。それをヘルパーさんが支え、次は左足を出すように指示して、やっと前に進む。この途方もない作業で、食堂まで連れて行ってくれている。
 
最初に転倒して頭をぶつけた時に、整形外科でなく専門医に行って検査するべきだった。脳のCT や MR I をとって専門医が診れば認知症だと診断されただろう。
 
老人の転倒、軽く考えないほうがいい。「年のせい」だけではないと思う。
                                (2012年8月)