これが認知症なんだ (225) 在宅の限界
<That's Ninchi Show No.225 >
認知症で一人暮らし、自宅にこだわっていても限界がある。
同居家族がいれば、朝定時に起こして着替えさせ、デイサービスのお迎えが来るのを待っていればいい。しかし、一人暮らしだとそうはいかない。デイサービスにきちんと行ける保証はない。行かないと昼食のあてがないにもかかわらず。
昼夜逆転することが多いから、朝は起きられない。寝ていてピンポンの呼び出しも聞こえない。または聞こえていても無視する。妄想が出ていたら絶対にドアは開けない。ドアの外にいる人がおそろしくて開けられない。
たまたま起きていても、着替えができない。何を着たらいいかわからないどころか、外出時は着替えるものだということまで忘れている。
もし運よく頭が働いていてそれら全てをクリアーできても、鍵の問題がある。デイサービスの車を待たせておいて、家の鍵を探す。みつかればいいが、みつからないからあとからタクシーで行くことにして先に行ってもらう。
鍵がみつかった、さあタクシーを呼ぼうと、電話をかけるが、電話番号をまちがえてばかりでタクシーが呼べない。道で拾うことにして、出かけようとする。念のためタクシー代があるかどうか財布を確認しようとしたら、バッグに財布が入っていない。
そこでまた財布を探すことになり、嫌気がさしてデイサービスを休む。
この問題を解決するには、朝からヘルパーさんに来てもらわないといけない。小規模多機能の中には、それを含めて「包括サービス」として定額料金の中でおさめてくれる所がある。送迎車が行く前に訪問して身支度を整えてくれ、デイサービスが終わって帰宅したころにも訪問してくれ、夕食の世話をしてくれる。
ここまでしてくれないと、認知症の一人暮らしはできない。が、そこまでできる介護事業所は少ない。政府は「在宅介護」を推進しているが、一人暮らしや老人だけの世帯が多いという点を無視しているようだ。
一人暮らしの認知症老人が在宅で暮らすには限界がある。家族や地域の協力があったころと、今の時代は違う。ご近所は何もしてくれない。町内に一人二人のおせっかいおばさんのいた時代はよかった。数十年ですっかり変わってしまった。
(2012年6月)