これも認知症なんだ<That's Ninchi Show 2>

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これが認知症なんだ (215) 吠える

<That's Ninchi Show  No.215 >
 
認知症が進むと、言葉が出なくなるのだろうか。
 
うちのおばあちゃん達は、そこまで至っていない。言葉が出ないときもあったが、それは脳梗塞や肺炎が起きたときだけだ。回復すると、またしゃべるようになった。意思疎通の問題はない。複雑な内容は理解できないが、短い応答ならば。
 
病気で脳の血流が悪化して「失語」状態になったときは、ほんとうにウンともスンとも言わない。まったく声を出さない。どこが苦しいのかも訴えないから、周りで判断するしかない。昼もほとんど目を開けていないから、眠っているのか、おきているのか、何を思っているのかさっぱりわからない。
 
施設では、「元気」な失語状態の人を何人も見た。一日中「あな、あな、あな、あな、あな、・・・」と言い続けるおばあさんや、同じく「おーい、おい、おーい、おい、おーい・・・」としか言わないおじいさんだ。元気で大きな声が出せる。四六時中、ほとんど休みなく続けられるのは元気だから。病気で弱っていたら声は出ないだろう。
 
これら二音のタイプだけでなく、一音のタイプもある。「おーーーー、おーーーー」と大声でわめき続けるおじいさんもいる。うちのおばあちゃんの向いの大部屋だ。おばあちゃんは耳がほとんど聞こえないから、平気でいるが、聞こえているおばあさんだと不眠症になるだろう。
 
夜、まわりが寝静まったころにもこの人達の「吠える」声はやまない。おばあちゃんが肺炎になって危なかった日にやむを得ず施設に泊まったことがあるが、この一夜はジャングルナイトか、サファリの野営かという感じだった。
 
一時から二時ぐらいが最高レベルに吠えていた。「闇に吠える」のは、本能なのかどうか。闇がこわいのか。廊下は明るいし、居室のドアは開いている。
 
周りが静かなだけに不気味だ。介護職の方々は毎回こんな夜を過ごしているとは、音だけで言えばまるで猛獣の飼育係も同然では。初めて見た人はきっと驚くだろう。
 
「吠える」しかない人も、何かを言いたいに違いない。言いたいことを言える、言葉がまだ脳の中にあってそれを引き出して表せる、それだけの能力でも残っているのは幸せなことなのだろう。いつかはここまでに至るかもしれないが。
                                   (2012年6月)