これも認知症なんだ<That's Ninchi Show 2>

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これが認知症なんだ (143) 認知症の進行

< That's Ninchi Show  No.143 >
 
認知症は、程度、進行速度、経過、どれもひとによって違う。個人差が大きい。
 
以前、おばあちゃんの老人マンションのケアマネージャーさんに言われたことがある。「認知症が進むとおとなしくなって介護がラクになる」ということだ。暴力も暴言もなくなるから、少しのガマンだと、家族を励ましてくれたのだろう。
 
それから数年、おばあちゃんはかわらずに悪口や泥棒呼ばわりを続けている。気に入らないと、たたく、つねる、なども加わる。少しもおとなしくなっていない。ところが、もう一人のおばあちゃんは、おとなしくなった。あとから認知症を発病したのに。
 
発病は二年ぐらいあとだった。「盗まれた」と騒ぐようになったのは。それがすぐに追いつき、二人とも要介護3になった。脳梗塞を起こしたせいか長期入院となり、追い越してしまった。要介護5だ。歩くどころか、立ち上がることも、寝返りもできない。 
 
入院中は「火事」「天井から水が漏れている」と騒ぎ、老健(介護老人保健施設)に入所してすぐの時は何回もナースコールを押すなど周囲に迷惑をかけた。が、それは五月から十一月の半年間だけだった。
 
なぜか十二月ごろから、「おとなしい」期に移行した。それまでとは逆に周りの評判もよくなり、とても介護しやすいと、どの職員さんからも言われるようになった。
 
面会に行ってみて驚いた。咳き込んでヘルパーさんが背中をさすってくれたら、「もういい。ありがとう。」とちゃんとお礼を言っていた。「盗まれた」等の発言は全くなくなったし、誰かを悪く言うこともない。
 
看護師さんの話では、「おはよう」と言うと、にこっとして「おはよう」と返すらしい。あいそ笑いまでできる。認知症でも笑える。笑えない時期が過ぎたということか。
 
部屋を移動することになり、おばあちゃんの意向も聞いてみようと(わかるかどうか不明だが、一応)、新しい部屋に連れて行き、空いているベッドを指さし、ノートに「部屋を移る」と書いて見せた。
 
すると、「どっちでもかまいません。皆さんの都合の良いように。」と言うではないか。これもびっくり。こんな長いフレーズがしゃべれるとは。
 
何の治療もしていない。高齢では、脳梗塞の予防薬も飲めない。血栓をできにくくする薬、これは出血を止められなくする作用があるからだ。脳梗塞はどんどん進んでいるだろう。それで、異常な言動がなくなったのかもしれない。
 
それだって脳の働きでおこるのだから。異常行動(BPSD)は脳が活動している時に起こるらしい。血流が悪くて脳が働いていない時には悪口を言いたくても言えない。
 
入院中は点滴や点滴の針を何度も抜いて困ったが、今ではそれもない。施設でも何回か体調をくずし、点滴が必要になった。おとなしく、点滴を続けられた。
 
病院では一日中手にミトンをはめられて拘束されていて、それを見たときはやむをえないと知っていてもあわれだった。おとなしい段階になって、もう拘束されることはない。それだけはよかったと思う。
 
九十歳という年齢のせいか、脳梗塞のせいか、認知症や身体機能の低下の進行がとても早い。八十歳のおばあちゃんを尺度にしていては、間に合わなかった。認知症の個人差は大きい。前例はあくまでも参考にしかならないということだ。
 
                             (2012年3月)