これも認知症なんだ<That's Ninchi Show 2>

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これが認知症なんだ (142) 特養のいい所

<That's Ninchi Show  No.142 >
 
特養(特別養護老人ホーム)を見学しに行って、違いがわかった。
 
特養の内部の様子や、老人たちの過ごし方は、老健(介護老人保健施設)とほとんど同じに見えた。ただ、老健のほうがリビングにいる老人は元気そうで、活動的な感じがした。車椅子を自分で動かして、知り合いをみつけては話しかけている。
 
特養のリビングにいる人々は、全員車椅子に座ったままで、動かない。黙りこくっているか、わけのわからない独り言をぶつぶつ言ってるか、奇声を発しているか、であって、動きがない。
 
リクライニング式車椅子の人などは、まるで人形のようにぴくりとも動かない。たぶん、手足も動かなくなっているのだろう。午後一時半だったが、まったく動きのない集団は不気味に思えた。
 
特養にも、自分で動きまわれるレベルの老人はいるはずだが、見かけなかった。どこか別室でおしゃべりなり、サークル活動なりを楽しんでいるのかもしれない。
 
老健に比べて特養は入所しにくい。待機者がぐんと多い。待っている間にどんどん重度になり、入所者は重度の人の割合が多くなるのかもしれない。
 
もちろん、軽度で入所して、何年もたって重度になった人もいる。特養は「家」だから、病気で入院するか、「お迎え」が来るまでずっと住んでいられる。
 
費用の点では、以前にも書いたように医療費とおむつ代、これが老健では無料、一ヶ月の介護サービス料の中に入っている。しかし、特養では別になっている。
 
また、老健では洗濯をしてくれない。家族がするか、外部業者に洗濯代を支払う。特養では洗濯を無料でしてくれる。個人の事情で、どちらがトクかは違ってくる。
 
特養の相談員さんの話を聞いていてわかったことがある。老健との決定的な違いは「外出」だ。七夕や、クリスマスなどの、館内でのイベントはおばあちゃんの老健でもあった。が、屋外での催しは一切ない。
 
老健では、外出はすべて、通院も含めて家族の役割のようだ。原則として家族が連れて行くことになっている。救急の場合を除いて。
 
特養では外にも連れて行ってくれる。近所に「花見」、庭での「夏祭り」などの屋外イベントがあるそうだ。季節イベントのない時は、定期的に「外食」に連れて行ってくれるという。
 
月に一回の外食は、車椅子に乗せて、近所のファミリーレストランへ行くそうだ。みんなこれを楽しみにしているらしい。老人は食べるのだけが楽しみだからと。
 
「おばあちゃんはミキサー食しか食べられないから、行っても・・」と言うと、相談員さんは「そういう方もケーキ類は食べられます。楽しんでおられますよ。」という答えだった。確かに、プリンやムース、柔らかいスポンジケーキなら食べられる。
 
老健は、ほとんど病院と同じだ。違うのは、三食をベッドで食べるか、リビングでみんなと食べるか、それだけだ。午後、夕食までの間、おばあちゃんは自室で寝てるのがほとんどだ。面会に行ったとき、「何もすることがない」とつぶやいていた。
 
認知症が軽いときは、テレビを見たり、雑誌を読んだり、同室の人と雑談したりできていた。それが今は何もできないのだから。もともと耳が遠くて会話がしにくい。その上さらに脳梗塞で発音も悪くなった。どこかに連れて行ってくれる家族もいない。
 
特養は特養のよさがある。施設の特徴を理解して、個人の事情に一番合っている、よりふさわしい入所先を選べたらいいのだが。
 
入所する側が入所先を選べるような現状ではない。選択の余地がない。それどころか施設のほうに選ぶ権限があるようだ。現実は厳しい。
       
                                   (2012年3月)