これが認知症なんだ (140) ミキサー食
< That's Ninchi Show No.140 >
ミキサー食は噛まない、噛まないから満腹感がない。
おばあちゃんは嚥下機能が低下し、キザミ食(細かく刻んだもの)からミキサー食になった。おかずも、おかゆもデザートも、すべてどろどろ、ゲル状で、見た目はおいしそうにはない。
口に入れてもぐもぐしたら、すぐ飲み込む。食べるのも一瞬ですむ。
ミキサー食になってから、おばあちゃんは一日中、「何かちょうだい。ない?」と会う人ごとに、たずねるようになった。職員さんが通りがかると呼び止めて、同じことを言うそうだ。
誰も何もくれないと、口を開けて、おなかがすいているのを示すらしい。その場合は、お茶ゼリー(お茶にとろみを付けたもの)をあげると、満足するようだ。
面会に行った家族にも、態度は同じだ。「具合はどう?」と言ったら、「お茶ちょうだい、お茶ちょうだい。ないの?ない?」と言われた。あいさつも何もない。
お茶ゼリーはいつでももらえると覚えたのだろう。食事は毎回全量食べているし、栄養ゼリーも追加されている。それで、おなかがすいているのはどういうことだろう。
担当の看護師さんに聞くと、食事のあと満腹なはずの時でも「何かちょうだい」を繰り返すから、ミキサー食で満腹感がないせいだろうということだった。認知症のせいばかりでなく。食べたことを忘れるというような。
確かにそうだ。以前のキザミ食と比べて、食べる時間が半分ぐらいになった。自力でぐずぐずとスプーンをあっちやこっちにさせて、手間どりながら口に入れていても、飲み込むだけだから、すぐに食べ終わってしまう。老人用の食事の量では。
施設には面倒をかけるが、その都度お茶ゼリーを用意してもらうよう、お願いしておいた。介護用の「粉末とろみ」をお茶に混ぜてもらう。
看護師さんの話では、もうキザミ食にもどる見込みはないようだ。よって、これからずっと「一日中空腹感の日」が続くだろう。空腹感すら感じなくなる日まで。
(2012年3月)