これも認知症なんだ<That's Ninchi Show 2>

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これが認知症なんだ (132) 老健の夕食 その2

<That's Ninchi Show  No.132 >
 
認知症は個人差が大きい。個別対応がふさわしい。が、施設では・・
 
おばあちゃんの老健(介護老人保健施設)の食事は、レベル別にテーブルが分けられていた。おばあちゃんをいれて四人だ。ほぼ同じ介護レベルでも、食事の内容、量、形態は四人それぞれ別で、皿数も違う。作るほうも面倒だし、運ぶのも一人づつだし、合理化できないわけだ。
 
食事が運ばれる前に、それぞれ食事エプロンを着せてもらう。介護用は前が長く、たっぷりこぼしてもいいようになっている。病院にいる時に買おうかと思ったが、看護師さんに相談して結局買わなかった。施設では貸してくれるから買うのはもったいない、リースのタオルはいくら使っても定額だから、タオルで代用するということに。
 
持ちやすいスプーンは買った。施設で貸してくれるのは、軽いスプーンだったから、病院から持ってきたそのスプーンは今も役に立っている。にぎる所が太く、先のほうのステンレス部の角度を個人にあわせて調整できる。
 
病院と違うのは、料理の器。スプーンですくいやすいように側面の角度が考えられている。手が不自由になってきても、自力摂取できるように。病院も老人患者ばかりなのだから、この容器を使ってくれたらよかったのに。病院では大変苦労して食べていたから。すくいやすいように自分でお皿を少し持ち上げる、それができないから。
 
隣のおばあさんは、テーブルでおしぼりを広げて遊んでいた。広げてはたたむ。うちのおばあちゃんは黙って座っているだけだ。左手は棒のようになっていて動かないから、おしぼりは丸められたまま、自分では広げて手をふくことができない。レベルの差がある。「よけいなこと」ができるレベルは、「よけいなこと」もしゃべれる。
 
隣の人は「三分の一はこれくらい?」と聞いてくる。「それくらい」と言うと三分の一におしぼりをたたんで、また広げ、また「三分の一はこれくらい?」とこっちを向いてたずねる。料理が運ばれるまで、これの繰り返し。いつもは職員さんが返事をしてあげているのだろうか。
 
残りの三人はみんな黙って座ってるだけ。おしぼりを使ってもいない。料理が来たら黙々と食べるだけ。隣のおばあさんは違う。食べる気がまったくない。こっちを見ては、「わたし、食べられない。かわりにどうぞ。」とか、「食べられないから、食べさせてくれる?」とか、うるさく、しつこい。「自分で食べて」と言うと、半分くらいはしぶしぶ食べていた。おなかが減ってないのだろうか。
 
いつもこうなのだろう。ケアマネージャーさんと食事前に話をしたが、そんなことを言っていたから。ただし、誤解がある。うちのおばあちゃんだと思っていたようだ。病院での様子と全然違うので、おかしいなと思ったのだが、夕食に立ち会って自分の目で見てよかった。やっぱり別人の話だったと納得した。
 
ケアマネージャーさんに「左手が動いていないようですが・・」と尋ねると、「そんなことないです。食事の前には頼みもしないのにおしぼりをたたんでくれます。」との答えだった。今まで自分の食事のお皿を押さえることもできず、お皿がお盆の隅まで動いて食べにくかったのに。施設に移って一ヶ月で、手が動くようになるとは、ちょっと信じられなかった。ほんとにそうなら喜ばしいことだが。
 
また、「自力で食べていますか?」と聞くと、「ほとんど自力摂取ですが、ときどき食べさせてと職員にねだる、依頼心が出てきています。周りで重度の人が食べさせてもらっているのが見えてしまうから、それででしょう」と言っていた。
 
この話も信じられなかった。認知症が出る前は「依頼心」はまったくない、絶対に誰にも頼らない人で、手伝おうとすると振り払う。自分から頼むことは一切ない。認知症は人格がかわるというから、それでかなとも思った。
 
ケアマネージャーさんは、隣のおばあさんのことを言っていたんだ。何人の老人を担当しているのか知らないが、キャパシティを越えているのでは? 仕事量が多すぎると、そういう単純なまちがいも起こる。書きまちがったのか、記憶違いか。
 
次の週、ケアマネージャーさんに電話すると、また同じ話をしていた。誤解に気づいていないようだが、「違うでしょ、隣のおばあさんのことです」とは言いにくい。その次からは介護スタッフのどなたかに電話で様子を聞いた。こちらは誤解してはいなかった。「食べさせて」とは言うことはない、自力で全量食べられていると。
 
施設や病院にいると、誰に話を聞いたらいいのか迷う。毎日、担当者が違っていて、記録ノートやカルテを見て、そこに書いてあることしか教えてくれないこともある。
それでついケアマネージャーさんを頼りにしてしまうのだが。
 
                                  (2012年2月)