これも認知症なんだ<That's Ninchi Show 2>

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これが認知症なんだ (130) 老健の夕食

<That's Ninchi Show  No.130 >
 
施設での食事の様子はあまり知られていないだろう。
 
食事介助をする余裕がないことは知られている。そのため施設に住み続けたいならと、「胃ろう」が勧められる。ひとりで食べられない、嚥下能力が落ちて食べにくい、そんな老人には。つきっきりで食べさせる、それだけの人手がないからだ。
 
ヘルパーさんたちは、一人で何役もこなしている。夕食時は特に人手が足らないのだろう。たぶん、三人分ぐらいの仕事をしている。それに見合った収入はないだろうに。
 
自分の目で見るまでは、もう少し余裕があると思っていた。人手不足でも。
 
おばあちゃんの老健(介護老人保健施設)では、三十人から四十人の単位に分かれていて、それぞれにデイルームというか、リビング兼食堂がある。
 
そこでレクリエーションや軽い体操などもできるよう、広いスペースがとられている。畳敷きのコーナーもある。
 
自分で自由に動き回れる、軽度の人と、車椅子さえ自分では動かせないような重度の人は分けられている。
 
おばあちゃんは重度のグループで、食事もそのグループのリビングで集まる。食事の内容も個人個人違う。ミキサー食、キザミ食、ゼリーやパックの牛乳しかお盆に載っていない人もいる。
 
おばあちゃんのテーブルは自力でスプーンで食べられる集団で、おばあさん三人、おじいさん一人。全員が車椅子。食事が来るまでテーブルを囲んでいるが、この集団はまったく相互の会話がない。独り言や、一方通行の話だけ。
 
あと二つほどは、おしゃべりしながら待っているから、少し認知症が軽いグループだろう。食事も普通食に近い。そういうように、席は食事のレベルや介護レベルに合わせて別れている。自力で食べられる人達の席と、そうでない重度の人の席とに。
 
廊下に近い、二つのテーブルは、リクライニング式の車椅子の人達だ。かなり重度の人で、普通の車椅子で座って身体を立てておく、その筋力がない。スプーンを持つこともできないから、ヘルパーさんが食べさせている。
 
このフロアーには、経管栄養(経鼻、胃ろう)の老人も多く、その人たちは食堂には出てこないから、この日の夕食は全部で十数人しかいなかった。しかし、ヘルパーさんは五、六人いるかいないかだ。
 
食事のお盆や薬を運ぶのに行ったり来たりで、食堂にずっといるのは最重度の老人達に食べさせている人だけ、三人ぐらいだろう。
 
食べさせながら、別のテーブルの自力で食べている老人たちを見張っている。のどにつまらせるとかの異変がないかを。食べさせているのも、二人とか三人をひとりで担当している。
 
何人もの老人の状態に気を配りながら、別のテーブルまで監視できるのだろうか。精神的に疲れる仕事だ。誰でもできることではない。
 
食事が終わると、ヘルパーさんは一人一人にコップと歯ブラシを渡して回る。やる気の全くない老人達に、歯磨きをさせていた。歯ブラシを口にくわえただけで、ぶくぶくうがいもできないのか、やりたくないのか、何にもしてないような老人もいる。
 
歯磨きをさせるのは、一人にヘルパーさんが一人付いていても無理なことが多い。認知症の老人は歯磨きが嫌いだ。歯磨きの方法だって覚えていない。施設では形ばかりになるのは、文句は言えない。しかたがない。
 
歯磨きが終わると、一人づつ順番に車椅子を押して、自室に連れて帰り、ベッドに寝かせる。テーブルの片付けはそれからあとだ。ここの老人達はほとんどがパジャマのままだから、着替えの介助は必要がない。
 
認知症老人は着替えを嫌がる。一日中パジャマでもいいだろう。
 
おばあちゃんが寝たのを見届けて、もう帰ろうと玄関に向かうと、誰もいなくなった食堂の隅の流しで、ヘルパーさんが何か洗い物をしていた。ヘルパーさんに「失礼します」と声をかけたら、「お疲れ様です」と言われた。
 
疲れているのはヘルパーさんのほうが何倍も疲れているに違いない。家族はたまに来て、介護の手伝いをするといってもほとんど見ているだけだ。
 
夕食もまだだろうに、休みなく休む間もなく働いてほんとうにご苦労様と思った。もう少し何とかならないものかと思う。昼間でも人手が足りているとは言えない。
 
ヘルパーさんにしかできないこと、専門的なことを除いて、それ以外の掃除や洗い物や片付け、洗濯物の仕分けや配膳、食事介助、食事の見守りなどは外部委託でもいいのでは? シルバーセンターとかの。
 
ボランティアも考えたらどうだろう。確かに素人に施設内をうろうろされたら、かえって面倒かもしれない。最初は役に立つどころかじゃまになるだけで。事故が起こる心配もある。
 
それを防ぐにはボランティアを指導するスタッフが必要になる。どこも人手不足でそういう余裕がない。それはわかるが、このままでいいとは思えない。
 
                                (2012年2月)