これが認知症なんだ (308) 家族の気持ち
<That's Ninchi Show No.308 >
認知症老人の家族の気持ちは、なかなか理解してもらえない。
認知症老人の介護は「家族なら誰でもできる」というものではない。責任感や親子の情でクリアできるレベルでもない。いくつかの条件がそろって初めて可能になるものだから。
ケアマネージャーさんなど介護職の人なら理解してくれるかというと、必ずしもそうではない。家族の苦労や立場をわかってくれる人はその中でもごく一部だけだ。
同じ介護といっても、介護職の人は条件的に恵まれていて、「余裕のある介護」ができる。介護について、知識、技術、経験があり、一緒にがんばる仲間がいる。しんどくてもそれは勤務時間だけのことだ。
それに対して、家族は何も持っていない。代わってくれる人もなく、しんどくても体調が悪くても、24時間、365日の介護という責任を負わされている。
介護保険制度が始まって約十年、介護業界というのは比較的新しい産業だ。そのせいか、また体力的にきついせいか、低収入のため子育て世代になると転職するせいか、介護職は若い人が多い。
そういう若い人が、認知症の親を持つ家族の気持ちがわかるかというと、かなり難しいだろう。40代、50代の人なら、わかってくれる人も多い。自分の親も似たようなものだから、共感できる部分もある。
わかってもらえないのは、もう一つ理由がある。家族にとっては、人生で初めての衝撃的な体験であっても、介護職の人にとっては何十回、何百回と見てきたことで、衝撃でも何でもないからだ。
「親にたたかれた」こともなく、ましてや「親に泥棒呼ばわりされた」こともない。人生で初めてそんな目にあって、これからどうなるのか不安でいっぱいなのが家族だ。
そんな話をケアマネージャーさんは何度も聞いているわけで、いくつもある「暴力、暴言」の一例にしか過ぎない。認知症ではよくあること、普通にあることだから。
この二者の間の温度差は大きい。介護職にとってみれば、家族の訴える苦労は日常茶飯事、それぐらいの感覚でしかないだろう。
家族の苦労は、同じ家族の内でしか共感できない。認知症老人の家族という、立場が同じ人はいても、家庭の事情や老人の病状、異常行動のレベルが違うからだ。
「たった一人の介護」を続けている場合、共感できる者は一人もいない。苦労をほんとうにわかってくれる人が一人もいない。それで何年も持つだろうか。