これが認知症なんだ （７９） おどす

＜That's Ninchi Show  No.79 ＞

 

認知症でも「おどし文句」は忘れていない。流暢に出てくる。不思議なことに。

 

この三週間ほど、おばあちゃんは普段と比べて異常に異常だ。ちょっと前の「うつ」のような時のほうがマシと思われるくらいに、うるさく騒ぎ立てる。いわゆる「興奮」状態だ。どこまでも自分をとおす。言うことを聞いてもらえないと、泣きわめく。

 

お風呂に入るのがいやだと言って大騒ぎする。どうしても周囲が折れてくれないとなると、おどす。「お風呂に入るくらいなら、舌を噛み切って自殺する。」

 

そんな大げさな！　お風呂がそんなに自殺するほどイヤなわけ？　笑うしかないが、本人は大まじめ、本気で言ってるからあきれて物が言えない。もしかしたら、「自殺」の意味がとっくの昔にわからなくなっていて、単なる修飾語に変わっているのかもしれない。

 

昔、おじいちゃんと一緒によくテレビの時代劇を見ていた。毎日、再放送も含めて。それで、このセリフを覚えているのだろう。おじいちゃんの命日など、大事なことはきれいに忘れてしまっても、どうでもいいことは不思議と残っていたりする。

 

しばらくして、「舌を噛むと、やっぱりすごく痛い？」と尋ねるから、「それは痛いに決まってる。」と言うと、おとなしくなった。まだ少しは考えることができるようだ。しかし、このままだとヘルパーさんに迷惑をかけ続ける。抑制系の薬を追加するかどうか検討せねばならない。