これが認知症なんだ (30) 散髪
<That's Ninchi Show No.30 >
認知症がひどくなると、なぜか散髪も嫌がる。
老人だって髪は少しは伸びる。三ヶ月に一回はカットしないと。老人ホームや老健(介護老人保健施設)では、訪問理容サービスがあり、安い料金(1500円~2500円)で散髪してもらえる。車椅子でも寝たきりでも可能だ。
訪問理容は本当にありがたい。車椅子を押して連れて行くことを考えたら。
残念ながら、おばあちゃんの老人マンションにはない。同じビルの1階にでも理容室や美容室があるとよかったのだが。しかたなく、家の近所の美容室にタクシーで連れて行っている、この三年間ずっと。おばあちゃんが、数十年通っている美容室だ。
認知症老人は新しい環境、慣れていないことにはパニックを起こしやすい。
できるだけ、以前と同じ環境を整えるよう努めている。
仕事が休みの土曜日、予約して、おばあちゃんをこの美容室に連れて行った。
店長さんがいつものように挨拶してくれた。おばあちゃんは無言。黙りこくっている。
席について、カットを始めようとしたら、異変。ハサミを見て何を思ったのか、突然
「わたしを殺す気?」と騒ぎだした。足が悪いから、暴れるといってもしれてるが。
長い付き合いなので、店長さんは慣れている。なだめて、何とかカット、パーマまですませてくれた。おばあちゃんは髪が少ないのを気にしていて、いまだにパーマでふくらませることに執着している。いろんなことを忘れているのに、これだけは忘れない。
ヘルパーさんにシャンプーしてもらってる時に、腕に爪を立てて振り払ったことも。
介護拒否が始まったようだ。
店長さんでないと嫌なのかもしれない。毎週店長さんにマンションまでシャンプーに来てもらっているから。この三年間ずっと。
慣れている店長さんにでも、ブローの途中に唐突に立ち上がろうとしたり、突然手を振り払ったりもする。もう、うんざりだ。言葉を忘れてしまい、言いたいことが言えないので、行動に出てしまう。それは、わかってはいるが。
店長さんの話では、認知症の異常行動が始まる一年前くらいから、おばあちゃんの様子が変だったようだ。いつも明るくほがらかで、よくしゃべるのに、ひとが変わったように無口になったから、おかしいなと思っていたらしい。
そのころも、おばあちゃんは毎週この店にシャンプーに通っていた。家族は全然気がつかなかったのに。たまにしか会っていないせいだろう。
一人暮らしの老人のことは、遠くに住んでいる家族より、近所の他人のほうがよくわかる。ご近所と日ごろから頻繁に付き合って、情報をもらっておくとよかった。
注) 訪問理容は、在宅介護でも可能です。
このときは知らなかったのですが、自宅にも来てもらえます。