これも認知症なんだ<That's Ninchi Show 2>

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これが認知症なんだ (24) 転居 その3

<That's Ninchi Show  No.24 >
 
説得は無理、認知症では論理的に考えられないから。
 
一人暮らしは不可能なのに、時間をかけて何度も話をしても、老人マンションへ行くのを拒否し続ける。仕事帰りに、おばあちゃんの家に寄り、毎日説得する。
 
やっと「うん」と言ったと思ったら、帰宅したころ電話がかかってくる。
「養老院に行くのは絶対イヤだから、行かないからね。」
おばあちゃんは二時間で気がかわる。説得の効果は二時間しかもたない。
 
養老院じゃない、老人マンションだと、何回言ってもだめだ。
マンションはバリアフリーだが、家は段差だらけ。「転んで骨を折り、寝たきりになったらどうする?」と言うと、「寝たきりになってから、養老院に行く。」と言う。
 
おばあちゃんの頭のかたいこと、思い込みの激しいこと、どうしようもない。
歩けるうちは自宅で、歩けなくなったら老人施設に行くという思い込みだ。
 
自分は姑の介護をし、最期を看取ったが、そんな苦労は子供や嫁にはさせたくないから、いよいよの時は老人ホームに行くからと、ずっと言っていた。
 
それをすっかり忘れてる。今、家族も近所の人もみんな苦労してるのに。何もわかっていない。自分が何をしたかもまるっきり思い出せないのだから。
 
医者をかわるのが嫌だと言うので、かかりつけの先生にマンションまで訪問診療を頼んだ。同じくマッサージも、近所の整形外科のいつもの人にひき続きお願いした。電車で10分だが、その往復の交通費を払う条件で。
 
それでもおばあちゃんは納得してくれない。
 
論理が通じないなら、「情」はどうかと頼み込むと、いったんはOKする。が、すぐに
「あんな知らん人ばっかりの所、行きたくない。食堂へ行くのも遠い。」
 
三階からエレベーターで降りたらすぐの所に食堂がある。全然遠くない。
 
それに、知らない人ばかりというが、今だってほとんど誰ともつきあいがないのに。近年は友人が遊びにくるのを断るようになった。デイサービスが嫌いでずっと家にいるのだから、マンションの自室にいるのと同じだ。
 
新築で、最新設備があり、日当たりも今の家より格段によく、窓からはいつも見ている山々が見える。何の文句もつけようがないのに、入居はイヤだとの一点ばり。
 
老人マンションはどれも同じ大きさ(25㎡)だが、南向きや上層階は家賃が高い。安いのから先にうまってゆく。説得してるうちに良い部屋がなくなる。思い切って、仮押さえしていた三階の部屋を契約することにした。
 
入居日が近くなっても、おばあちゃんは考えを変えない。引越しの準備をしていても知らんぷり。家具をはじめ、着るものから生活雑貨まですべて家族で梱包した。
 
「このワゴンは置いといて。」と引越し荷物のチェックだけはあって、どうしてかわからないが家に残したいものが抜かれてしまい、新しく買うはめになったが。
 
秋風が吹き始め、おばあちゃんの気がかわった。木造の家は寒い、マンションに引越ししたいという、この数年間の思いがよみがえったようだ。まさに天のたすけだ。
 
この冬だけ、春になったら帰るという条件で、老人マンションに行くことに同意してくれた、ようやくやっと。
 
説得などとムダな努力をせず、”神風”が吹くのを待っていればよかった。