これが認知症なんだ (22) 転居 その1
<That's Ninchi Show No.22 >
認知症老人は環境の変化を嫌う。が、そうも言ってられなくなる。
老人の多くは保守的で、新しいことを嫌がる。認知症になると、特にこの傾向が強い。慣れない環境に置かれるとパニックになりやすいという。
慣れてない所に行きたくないという理由で、経済的に余裕がある人でも有料老人ホームに行かずに、在宅介護を続けることが多い。
まわりの環境は変化しなくても、本人の症状は日々変化する。妄想が落ち着いたかなと思うと突然徘徊が始まるというように、段階的に進行していく。
近所に迷惑をかけることが多くなり、どうしたものかと考え、毎日仕事の帰りにおばあちゃんの家に寄ることにした。家族がそばにいて不安感が減るなら異常行動も減るだろうと。
会社から一時間で着く。夕食を一緒に食べて、一時間半かけて帰宅。電車の乗り継ぎが悪いと二時間、運が悪いと最終のバスが出てしまい、駅からタクシーとなる。
交通費もかかるし、自分の時間もなくなるが、他の人に迷惑をかけられない。一緒にいて、昔話でもして脳を刺激すれば少しでも進行が止まるのでは? いろいろネットで調べると、回想療法というリハビリもある。
土曜日は帰らずに泊まる。おばあちゃんは足が悪くなってから一階のリビングに寝ているから、二階の部屋が空いている。念のため寝室ドアには鍵をかけた。
リビング横の台所には包丁もある。足が悪いと本人は言ってるが本当は悪くないから、いつ妄想にかられて包丁を持って階段を上がってこないとも限らない。
妄想は不可能を可能にする。妄想は一番身近にいる者を悪者にする。
「殺される前に殺そう」と思わないとはいえない。
日記を書けばと、ノートを買ってきても書かない。家計簿を捨ててしまったので、新しく家計簿を買っても、家族につけさせる。押しやすいようにと特大の電卓を買ってあげても、使おうとしない。それも家族にさせる。
発病前は熱心に家計簿を記入していたのに、まるで別人のようだ。やりくりして、せっせと貯金をしていた人だったが。アルツハイマーは人格がかわることがある。
むなしさと疲れとで、もう限界だ。「どこか施設に入れないんですか」と警察に言われたことを思うと、近所の人たちもきっと早く施設に入れてほしいと願っているだろう。
本人は寝たきりになったら老人ホームに行くつもりで、そのために貯金をしていた。
寝たきりでもないのに老人ホームに行く気はない。
説得も困難な上に、施設が空いてるかどうか。
このままでは無理なのだから、進めるしかない。施設をさがすことにした。
むだな努力をせず、さっさと次の手を打っておくとよかったかもしれない。