これが認知症なんだ (305) 物とられ妄想
<That's Ninchi Show No.305 >
物とられ妄想、これこそ認知症という特有の妄想だが・・・
これも個人差があって、人によってあらわれ方が違うから要注意だ。認知症になっていても、ある程度それまでの性格によって違ってくるようだ。
「盗られた」と思い込む理由は、自分の行動を思い出せないからだ。自分がどこに置いたかわからなくなり、探しても探してもないから、盗られたとしか考えられない。
単純なものと、複雑なもの、二種類がある。単純なものは他の妄想と関係のない、ふだんと同じ「物忘れ」だ。
探してる物を、どこに置いたか、捨てたか、誰かにあげたか、記憶の中から呼び出すことができず、「その行為はなかった、何もしていない」という結論に至る。
自分が何もしていないのに、「物がない」ということは「盗まれた」ということだ。
複雑なものは、根源に別の妄想がある。ヘルパーさんや家族が来る前に、通帳や現金などを「わかりにくい所に隠す」、盗まれないようにと。
こうしてわからない所に隠したことを、本人がすっかり忘れてしまう。隠した場所を忘れるならまだいい。それなら認知症ではない。
隠したという一連の行為すべてが、「なかったこと」になっているのが、認知症だ。
自分で隠しておいて、「通帳がない、やっぱり盗られた」と騒ぐ。この場合、隠し場所を探すのはとても大変な作業になる。普通は考えないような所にあるから。
同じように「盗まれた」と思っていても、人によっては騒ぎ立てず、口に出さないこともあるようだ。それまでの性格とか、人生経験の違いかもしれない。
うちのおばあちゃんもそうだ。ヘルパーさんに面と向かって「盗んだ」とは言わない。家族にだけ「ヘルパーさんが盗んだ」と言う。家族にも面と向かって泥棒呼ばわりはない。あちこちの親戚に「家族に財産を盗られたかもしれない」と言うだけだ。
直接言われている家族と比べたらストレスは少ない。
もう一人のおばあちゃんは「盗まれた」という言葉も言わない。「誰かが持って行った」と言う。ずっと商店経営をしていたので、気をつかって話すという癖があるのか。
この人はなかなか「盗まれた」と言わないから、認知症の発見が遅れてしまった。毎日のように物をなくして、探しまわっていたにもかかわらず。
「盗まれた」発言がないからといって、安心はできない。言わない人もいる。
同じものを何回もなくす、毎日探し物をする、みつからず買いに行くから同じものがいくつもある、何かにこだわって探しまくるなどがあれば認知症だ。
認知症は治らない。早期発見して現状維持をはかるのが本人のためだ。