これが認知症なんだ (21) 会話 その1
<That's Ninchi Show No.21 >
老人は自分勝手にしゃべる。認知症だといっそう、会話にならない。
自分の言いたいことだけを言って、相手の話をまったく聞かない。一般的に老人にはよくあることだ。早く言わないと、自分の言いたかったことを忘れてしまうから。
前置きの話で盛り上がってしまって、自分が何の用事で電話したのか、忘れてしまうことも多い。「思い出したら、かけなおすから」ということになる。
認知症が発病してから、おばあちゃんの電話は、本当にへんだった。
内容がおかしいのは言うまでもないが、電話をとった時の第一声からして異常だ。
「わたし。わたしが誰かわかる? 」 とたずねてくる。いつも。
普通は自分から名乗るものだが。
そのあと、以前なら孫はしっかり勉強してるかとか、季節がら風邪ひいてないかとか、前置きの話があってから本題に入っていた。いつもそうだった。
特に「子供は勉強しなさいと言わないとダメ」のひとことは絶対かかさず、何度も念を押す。昭和の教育ママの典型だったから。これを言わなかったことはない。
それが一切なくなり、突然、わけのわからない妄想の話から始まる。
妄想に支配されている時は、他人の話は少しも頭に入らない。本人の頭の中の世界が絶対に正しくて、その他はすべて誤りとみなされる。
何か反対意見を言おうものなら、ウソつきの大悪人にされる。一方的にしゃべるのを黙って聞いているだけ、まったく会話にならない。会話がかみあわない。
「失業妄想」の時の電話はこうだ。
「お父さんは会社に行ってるから、いないよ。」と言うと、おばあちゃんは断言する。
「いるのはわかってる。失業してるの隠してるんでしょ、知ってるからね。」
そのあとも続く。「東京の叔母さんに頼んでおいたから、就職先どこかないかって。」
孫も嫁も親戚も、周囲の人みんながだましてる、ウソをついてると思っている。
何度言っても考えはかわらない。一生懸命説明すればするほど、逆効果になる。
「なんでウソつくの」と怒り出し、泣きわめく。 こうして、この妄想は続いていった。
電話の終わり方もおかしい。突然終わる。自分の言いたいことだけ言うとガチャッと切れる。 「じゃ、またね」のひと言がない。
おばあちゃんの電話は本当に疲れる。家族みんな、電話に出ようとしなくなった。
電話の呼び出し音を聞くだけで、もうストレス状態。
慣れたらうまく対応できるかというと、三年たっても同じ。いつもストレスがかかる。
認知症老人と会話するには、慣れだけでなく、技術がいる。それがわかれば・・