これが認知症なんだ (15) 診断 その2
<That's Ninchi Show No.15 >
どんな病気も初期は診断が難しい。認知症も同様に。
専門医でも、初めて会った患者の病状を、きちんと把握できるわけがない。外来診療の短時間では、部分的なことしか見えない。特に、個人差の大きい病気は。
脳血管外科の紹介状を持って、精神科におばあちゃんを連れて行った。
認知症の治療ができるなら、治療方針をたててもらい、できれば入院もと思って。
ところが意外にも、認知症かどうかははっきりしないという診断だった。
長谷川式(長谷川式簡易知能評価スケール)のテストで、おばあちゃんは信じられないくらいがんばった。いつもは返事もしないし、反応も遅く、ましてや計算などしない。
それが、先生の質問にはハキハキと答えている。今日は何月何日か、何曜日か。
また、百から順番に七をひいていく問題も軽くこなした。
「ねこ、電車、りんご という言葉を覚えてください、あとでききますから」 というのも問題なくできた。結果、30点満点の27点だった。
老人のプライドなのか、介護認定の時も同じだったが、なぜか「ここぞと」はりきってしまう。がんばらなくていい時にがんばる。
認定の係りの人に「手はあがりますか?」 と言われたら、ふだんは高い所は手が伸ばせないと言ってるのに、懸命にどこまでも伸ばしていた。
要介護度をあげてもらうための介護認定なのに、がんばられては困る。
脳血管外科の先生は認知症だと言い、精神科の先生は違うと言う。
これからの治療はどうしたらいいのか。何時間も順番待ちをして、何にもならず。
周辺症状を抑えるための精神科の薬については相談できた。収穫はそれだけ。
別の病院に連れて行くことも考えたが、本人がもう精神科は行きたくないと。
一年後、二回目の長谷川式テストの結果は、17点だった。
30点満点で、「20点以下は認知症の疑いがあり」 となっている。
一年後は誰が見ても認知症だ。