寝たきりで「たすけてください」は。。。。。
「たすけてください」と言われても、意味がわからない。
ほとんどしゃべることがなくなった人に、突然「たすけてください」と言われたらどうする? 前置きも、後の説明もなく、たった一言。
先日少し時間があったので老人ホームに面会に行った。ここは家族は自由に出入りできる。玄関脇の管理室で面会簿を記入しなくてもいい。
セキュリティが不安ではと思うが、建物のレイアウトがよくできていて、何人ものスタッフと必ず目が合う。玄関も廊下も、エレベーターホールも。
誰も見ていない場所というのがない。老人にとっては「安心できる」環境だ。
おばあちゃんの部屋をノックして、少し間をおいて引き戸を開ける。「どうぞ」も「はい」もない。本人は何の反応もしないのはわかっているが。
突然ドアが開いたらびっくりするだろうし、反応があるかもしれないし。
ベッドに近づいて挨拶したが、やはり無言。ちらっとこっちを見るだけで反応はない。すぐに窓際のテレビ画面に目をやる。
「テレビがおもしろくない」と言って一時期はテレビを見ていなかった。たぶん内容が聞き取れないからだろう。ドラマの筋も覚えていられないし。
近頃は毎日テレビをぼーっと見ている。内容がわからなくても、画像を眺めて、CMの音楽を聞いているだけで、それなりに楽しいのだろうか。
「今日はダメだな、しゃべらない日だ」と思って、背を向けて持ってきた荷物をタンスにしまっていると、唐突に「たすけてください」とおばあちゃんが。
振り向くと、再度「たすけてください」と言う。よく見ると、特に変わったことはない。身体の位置もさっきのままだ。寝返りもできないので当然だが。
少しでも動ける人なら足や手がベッドの柵にひっかかったとか、ベッドから落ちそうになったとかが考えられる。それなら「たすけて」となるだろう。
「何が?」「どこか痛いの?」と何度も質問しても答えはない。無言。
「たすけて」の理由が全く思いつかない。虫がいるわけでもなく、暑いわけでもなさそうだ。熱が出ているのかと身体をさわったら冷たいし。
聞いてみると、妹にも妹の家族にも「たすけてください」を言っているし、介護スタッフにも言っている。誰彼かまわず全ての人に。
いったい何が理由なのだろう。何から救われたいのだろう。
言いたいことがあっても脳が壊れて言えないから、それで「たすけて」の一言だけになったとしたら、それこそ「たすけてほしい」状況だ。
「たすけてください」と言いながら首を持ち上げていた。首と右手はまだ動くから。足が動かない、左手が動かないので「たすけて」なのだろうか。
効果が期待できないから、医療費のムダとみなされている。しかたない。
言いたいことが言えず、動きたくても動けない。その理由もわからず(記憶障害で)、これからどうなるか不安。本人のストレスはどれ程だろう。
胃ろうで長生きできているが、「たすけてほしい」毎日だとしたら・・これでよかったのだろうかと思う。長生きしても幸せでないとしたら。
「たすけてください」のたった一言がとても重い。