これも認知症なんだ<That's Ninchi Show 2>

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これが認知症なんだ (125) 忍耐

<That's Ninchi Show  No.125 >
 
異次元の門をくぐる。おばあちゃんのマンションのドアはそんな感じだ。
 
老人マンションのオートロックを開けて入ると、新築のときにはなかったにおいが。
加齢臭。香りのきつい百合の花がホールに飾ってあっても、エレベーターに残る。
 
におうのは老人はお風呂が嫌いだから。また、介護保険の枠があって、週に二回ぐらいしか、入浴介助にあてられない、そういう理由もある。
 
普通の世界に慣れていると、認知症老人の世界になかなか適応できない。介護職の人々は毎日、どうやってこの切り替えを続けているのだろう。頭がおかしくなりそうな、そんなことはないのだろうか。
 
「何しに来たん?」と、いつものように怒鳴られた。こっちだって、来たくて来ているわけではない、電車を二回も乗り換え、二時間半もかけて。世話をしてあげて、ねぎらいの言葉一つなく、ののしられる。これが三年、もうすぐ四年になる。
 
歯科治療で機嫌がよくなった。が、二週間もそれは続かなかった。また、元に戻ったのは、何が原因なのだろう。どこか具合が悪いのだろうか。認知症だから自分の身体の不具合がわからない。わからなくて、イライラしているのかもしれない。
 
土曜日は毎週、なじみの美容室の店長さんが、マンションまでシャンプーに来てくれている。入居から三年以上ずっと。その店長さんにまで、おばあちゃんは悪態をつく。口汚くののしる。
 
シャンプーが嫌だから、そういう態度をとれば、やめてくれると思っているのかどうか。お風呂も、着替えも、洗面も、歯磨きも嫌いだから。すべて抵抗する。
 
「介護拒否」というそうだ。認知症でもこの症状がある人とない人がいる。
 
「耳がかゆいのは、安物のシャンプー使ってるせいだ」と店長さんに文句をつけていたが、ここは自室で、シャンプーは自前だ、それをすっかり忘れている。
 
おばあちゃんは若いころから髪の毛が薄いのを気にしていて、ケアにはお金を惜しまない。シャンプーは数千円もする最高級品しか使わなかった。
 
あまりに態度が悪いので、つい声を大きくして注意しそうになる。認知症にはそういう対応はいけない、それはわかっている。が、普通の人間だから。強靭な精神力(忍耐力)があれば、いつも冷静に対応できるだろうが。
 
介護職の人々はよくこれを続けていられるものだ。頭が下がる。離職率が高いのも、うなづけるが、やめないでほしい。要介護老人の家族としてはそう願う。
 
勝手なお願いのようでもあるが。認知症の介護は、わからないことだらけだ。蓄積された過去の実例や、経験から得られたノウハウ、スキル、それだけが頼りだから。
 
                                       (2012年2月)