これが認知症なんだ (76) 出たくない
<That's Ninchi Show No.76 >
認知症と「ひきこもり」は似ている。外に行くのが嫌いなのか、面倒なのか。
老人マンションに入居する前は、炊事ができなくなってから毎日外食していた。近くだから一人で杖をついて行っていた。着替えもせず、家にいるときのままの格好で。
着替えがイヤというのは、この時からすでに始まっていた。発病してすぐの時から。
この時は一人暮らしで、着替えを手伝ってくれる人がいない。手足が不自由で、着替えるのに時間がかかる。だから面倒で着替えないのかと思っていた。そうではなかった。
あとで、ヘルパーさんが着替えさせてくれる状況になっても、着替えをいやがっている。パジャマに着替えるのもイヤで、普段着のまま寝ている。着替えるのは一週間に二回の入浴のあとだけだ。
どういう理由なのだろうか。わからない。ただ、認知症だと「環境の変化を嫌う」と言われている。それなら、服を着替えることも、一つの「変化」だから。
マンションに入居したのが秋だったから、天気のいい日には散歩に連れて行った。
歩いて3分ほどで児童公園がある。ブランコやすべり台で子供たちが遊んでいる。
ベンチに座って日なたぼっこをして帰る。それを次の春まで何回か続けたが、本人は少しも楽しそうになく、出かけたくないと言うから、それ以後は散歩はやめた。
マンションのバルコニーにすら出ない。出れば六甲山がよく見える。入居してから一度も出ていない。最初だけは自分で洗濯をしていたが、洗濯物はすべて浴室に干すから。部屋の外に出るのをとても嫌がるようになった。
自分の部屋という環境から、部屋の外という別の環境へ移動するのも、「環境の変化」だから、それで嫌がるのだろう。それが「ひきこもり」の原因かもしれない。
「出たくない」老人をどこかへ連れて行く必要があるときが大変だ。嫌がって言うことを聞かず、困難きわまりない。病院で検査というのも一仕事だ。
認知症が単なる「記憶できない」という、それだけの病気だったら、こんな問題は出てこないだろう。どこの病院でも、役所でも銀行でも、簡単に「ご本人を連れて来てください」と言われるが、こういう苦労をわかってるのだろうか。