これも認知症なんだ<That's Ninchi Show 2>

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これが認知症なんだ (33) 入居日

<That's Ninchi Show  No.33 >
 
認知症老人の多くは、自分が認知症だと思っていないようだ。
 
老人マンションへの入居日の前日、おばあちゃんが再び入居拒否に転じた。
「木造は寒いから冬の間だけマンションに行く」と言っていたのに。
気が変わった理由は、東京の叔母さんからの電話だった。
 
「老人マンションに行くと、認知症になるよ。」と叔母さんに言われたらしい。
もうすでに認知症になっていること、叔母さんは知らないようだ。たまに電話で話すくらいだと気がつかない。
 
前もって、叔母さんによけいなことを言わないように頼んでおくべきだった。普段のつきあいがないので、ここまでは根回ししていない。必要がないと思って油断していた。
 
おばあちゃんの友人や関西の親戚には、老人マンションに入居を考えているがどうかと最初から相談し、了承を得てから話を進めた。老人ホームと違う点を強調すると理解してもらえた。
 
年配の人には老人ホームは「養老院」というイメージがあるから賛成してもらえないかと思ったからだ。おばあちゃんから相談があったらよろしくと頼んでおいた。
 
このタイミングで東京から電話がかかるとは思わなかった。よりにもよって。
 
「家賃の二か月分、もう払ってある。返金してもらえない。」と言うと、本人も黙ってしまった。入居日に合わせ、会社に無理を言って、秋分の日と土日を含めて一週間の休みをとった。
 
介護休暇の制度を持ち出すこともなく認められた。会社にも家族が認知症だという人は何人もいるから、事情を話せばわかってくれるものだ。
 
おばあちゃんは家事手伝いのまま嫁に来て、勤めに出た経験はない。未亡人になってからは一人暮らしだが、近所に住む親戚が多く、何かにつけて支えられてきた。
 
他人の中で暮らすのは初めてだ。不安でいっぱいなはず、慣れるまで側についておくべきだろう。徘徊や脱走の心配もあった。ケアマネージャーさんから、以前入居拒否の老人が脱走したことがあると聞いていたから。
 
入居日、おばあちゃんは楽しそうではなかったが、怒りも泣きもせず、おとなしくマンションに移ってくれた。もちろん荷物の整理は何もしてくれない。文句を言うだけ。
 
老人マンションは、家族の分も前もって予約すれば、食堂で一緒に食べられる。こうして入居日から毎朝おばあちゃんの部屋に通い、昼食と夕食を一緒にとり、八時ごろに帰るようにした。
 
大変疲れた一週間だった。そのあとも、週に三回は仕事の帰りにマンションに通った。土日は朝から。それが、徐々に週二回になり、週一回になって今に至っている。
 
どうしても神戸にこだわるから、4時間も往復にかかる。認知症が進み自分のいる場所もわからなくなったら、大阪の老人ホームに移ってもらうつもりだ。
 
注: 当時はそう考えていましたが、自分のいる場所は4年たっても忘れてはいません。