これも認知症なんだ<That's Ninchi Show 2>

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これが認知症なんだ (205) 納得させる

<That's Ninchi Show  No.205 >
 
施設入所を納得させる方法はあるのだろうか。
 
「そろそろ施設に」と言うのは簡単でも、実現は大変困難なものだ。空いている施設があっても、本人がなかなか同意してくれない。
 
時間をかけてじっくり説得できればまだしも、時間的に余裕はない。空きがあるうちに決めなけらばならない。待機者は山ほどいるから、チャンスは一度だけだ。
 
認知症老人の説得という至極困難なことを、短時間で成し遂げねばならない。
 
時間稼ぎはできないこともない。問題の難しさからして十分とは言えないが。
老人マンションの場合は、「仮押さえ」という形で、入居する部屋を他の人が契約することがないようにしてもらい、説得する時間にあてた。二、三週間ぐらいだ。
 
老健(介護老人保健施設)の場合は、訪問介護のケアマネージャーさんが間に入ってくれ、入所希望の電話連絡だけで二週間ほどの猶予をもらえた。空きが出たのが月の半ばだったから、月末までに返事をすればいいということで。
 
こうして説得の時間は作ったが、結果的にはどちらの場合も説得はできなかった。
 
認知症老人の説得は疲れるだけで何の成果もない。やっと同意してくれたと喜んでいたら翌日には「やっぱり老人ホームには行かないからね。あんな遠いところ。知らない人ばっかりで。」と言う。気持ちは一日の内でも変わる。
 
二人とも同じような思い込みがあった。自分で歩いてトイレに行くことができるうちは老人ホームに行く必要はない、というものだ。だから、いくら頼んでも、どんなに好条件を強調しても、最終的には「まだ早い」という所に至る。
 
妄想をふくらませながら歩き回っている認知症老人ほど迷惑な存在はない。一人で家に置いてはおけない。施設に行く必要がある。「まだ早い」どころではない。本人は近所に迷惑をかけているという自覚がないから、まだ家にいられると考えている。
 
根本から考え方が違うのだから、同意してもらうのは不可能に思えた。
 
それでも、家族みんなで何日も何回もしつこく説得した。親戚も、友人も、ご近所も、ヘルパーさん達も、ケアマネージャーさんもだ。
 
まわりの人達みんなに言われ続けたせいか、同意しないまでも、激しい拒否はなくなった。そうして入所(入居)の日を迎えた。「入所(入居)するべきだ」という思い込みができてきたのだろうか。
 
二人とも脱走の可能性が高い。電話してタクシーを呼ぶことができる。それで財布は小銭だけにして、千円以上いれないようにした。持っていく荷物から電話帳を抜いておいた。タクシー会社の電話番号まで覚えているはずがない。
 
ところが、まだまだ頭が働いているから、「これでは何かの時に足らない」という理由で一万円持っていくと言ってきかない。とりあえず、言うことを聞いておいてあとで小銭だけにすることにした。
 
お金を持っていなくてもタクシーには乗れる。帰って来るかと心配していたが、二人とも「脱走」はなかった。なぜ脱走しなかったか、よくわからない。木造の家と違って鉄筋コンクリートで過ごしやすかったからかもしれない。
 
「寒い冬の間だけ。春になったら家に帰ってきたらいいよ。」と言って入所(入居)を頼んだからだ。エアコンを使っても寒い、足元が冷えると気にしていたので。
 
グループホームの所長さんに電話で相談したときにアドバイスされたのだが、入所を嫌がるときは、「冬の間だけだから。家だと木造で寒いよ。」と言えばいいと。
 
夏なら「夏の間だけ」と言えばいいのだろう。季節が移っても、「冬の間だけ」と言っていたことは忘れているから、そのまま施設にいてくれるらしい。
 
納得して入所(入居)した老人はどれだけいるのだろう。納得させる方法があるならぜひ教えていただきたいと思う。
                                    (2012年5月)